ヒガンハナは日本全土に分布していますが、自生ではなく有史以前に中国からわが国へ渡来したものと考えられています。
江の島の植物・野草≪ヒガンバナ≫
ヒガンハナは人里に近いところに群生する多年草で、日本全土に分布していますが、自生ではなく有史以前に中国からわが国へ渡来したものと考えられています。江の島では広場や海側斜面などに生育していますが、ひときわ目立つ赤い花は、まわりとよく調和して美しい景観を作り出します。名前の由来は9月の彼岸の時期に開花することに因みますが、織りなす花の形は実に巧妙で美しく、別名を曼珠沙華(天上に咲く花の意)ともいいます。
草むらに咲くヒガンバナ
私がこの花を愛でるようになったのは歳を重ねてからで、幼い頃は火事花、幽霊花、死人花、捨て子花などと聞かされ、気味が悪く避けて通ったものでした。全草に毒があり子供が誤食しないようにと、このような名前が付けられた
ものと考えられます。近年は球根も販売されており、庭に植えて花を楽しむ人も多くなりました。田んぼのあぜ道などに咲くヒガン花には風情があり、被写体としてカメラマンには人気があります。
ヒガンバナには葉がなく、鱗茎から30~50㌢の花茎を出し、その先に赤い花を数個輪状につけます。6枚の花被片は大きく湾曲して反り返り、雌蕊は1本、雄蕊は6本で、そのつくりはユリ科の花によく似ていますが、子房(種子ができる場所)のつく位置は両者で異なります。ユリ科の子房は花弁の付け根の上に (子房上位)、ヒガンバナ科の子房は花の下(子房下位)に位置します。
亀ヶ岡広場にて
ニホンスイセンの子房
同じヒガンバナ科のニホンスイセンをご覧ください。花弁の下のふくらんだ部分が子房です。しかし、わが国に生育するヒガンバナやニホンスイセンは3倍体のために種子が出来ません。人の手によって地中の鱗茎が土と共に運ばれ、そこで繁殖するのです。 ヒガンバナには葉が無いのでしょうか、いやあります。花が散って花茎が枯れたあとの晩秋に、鱗茎から細い線状の葉が束生して地上に現れ30~50㌢に生長します。他の野草が枯れる冬季にも、ヒガンバナの葉は艶のある緑色を保ち、光合成を行い球根に栄養分を蓄えていくのです。枯れ草の中でヒガンバナの葉はよく目立ち、江の島の参道脇や草むらなどでも見かけます。
ヒガンバナには有毒成分があるので、ノビルなどの山菜と間違えないようにしましょう。各種の野草が生い茂る5月の初旬には、この葉はほとんど地上から姿を消します。このように葉と花が同時に地上へ出ないことから「葉は花を見ず花は葉を見ず」で、ハミズハナミズとも呼ばれていますが、ヒガンバナの呼び名は実に多く、数百に及ぶともいわれています。ヒガンバナの鱗茎にはリコリン、ガランタミンなどの有毒成分があり、この鱗茎を乾燥したのが生薬の石蒜(せきさん)で、打ち身、捻挫などの外用薬として用いますが、食用にすることは禁物です。
ヒガンバナの葉
【写真&文:坪倉 兌雄】