江の島の植物・樹木≪イチョウ≫≫
江島神社の御神木は気根が目立ち力強い生命力を感じる
イチョウは平安末期から鎌倉時代に、中国から日本に渡来したと推定されています。
ソテツなどと同じ裸子植物で、雌雄異株の落葉高木、樹皮は灰色で厚く、気根(乳柱)を付けることがあります。イチョウは長寿で樹形が美しく、神社仏閣によく植栽され、数百年を経た巨木や名木を各地で見ることができます。
江の島にもイチョウの木は多く、神社境内には大木もあります。江島神社・辺津宮境内の御神木・大イチョウは、威風堂々として聳え立ち、強い生命力を感じます。根は一つですが幹が二つある御神木に、良縁を祈願して多くのカップルが訪れます。今から2億年前の中生代ジュラ紀から、地殻変動や氷河期を乗り越えて今に、連綿と続イチョウの生命力、その大木は霊木そのものに映ります。
イチョウ属はおよそ2億年から6000万年前の中生代ジュラ紀に最も栄え、その仲間は数十種に及んでいたことが、
世界各地で発掘された化石などから判明しています。その後、地殻変動や大氷河期などを経て大半が恐竜と共に滅亡し、生き残った現在のイチョウが“生きた化石”として一科一属一種をなしています。ギンナンは茶碗蒸しや酒のおつまみに、葉は健康食品などに用いられていますが、かつては恐竜が食べていたことに思いをめぐらすと、ロマンがさらに膨らみます。イチョウは太古の昔と現在を結ぶ貴重な媒体を為す樹木であり、山野に自生することなく、植栽で保たれていることから、人との関わりが非常に深いことを改めて感じさせられます。和名の由来は、中国名の鴨足樹(ヤ―チャオ)の発音からイチョウへの転化、葉が一枚であるためイチョウ(一葉)、などの諸説があります。イチョウは雌雄異株で、開花は新葉の出る4月頃、裸子植物で花弁や萼片はなく、花は目立ちません。雌花は長さ約2㌢の花柄の先に、卵状で緑色の裸の胚珠が2個つき、雄花は長さ約2㌢の穂状で多数の雄蕊がつき淡黄灰色を呈します。
…生命の躍動を覚える若葉の季節(4~5月)、雄蕊の花粉は暖かい風に乗って愛しい雌蕊の元へ、雌蕊の花粉室に迎えられた雄花粉は、水や栄養のもてなしを受けて数カ月、さらに生長して9月頃にはめでたく受精、そして晩秋には成熟したギンナンの旅立ちが始まるのです。
… 受精時に精子が出るのを発見したのは、帝国大学植物学教室(現在の東京大学)に画工として採用されていた平瀬作五郎(1888-1897)によるもので、その協力者である池野成一郎もソテツの精子発見者として知られています。この母体となったイチョウは小石川植物園に現存しています。
【写真&文:坪倉 兌雄】