江の島の植物・樹木≪タブノキ≫
江島神社・中津宮境内のタブノキ
タブノキはクスノキ科の常緑高木で、東北地方から沖縄まで広く自生し、特に海岸沿いに多く、暖かい地方では内陸の山地にもみられます。タブノキは“緑の江の島”の緑を構成する主要な照葉樹で、島内には大木や老木が多く、主幹の途中から四方に大枝を張り、威風堂々としたその樹形は実に美しく、樹冠が作り出す空間は正に神秘的、我々より遙かに長い年月を生き抜いてきた大木に畏敬の念を覚えます。タブノキはタモノキとも呼ばれ、タモは霊(タマ)に由来し、神霊の依代、霊の宿る樹を意味するとされています。
江の島を訪れるたびに、聳え立つタブノキの下に佇み、幹伝いに空を見上げることしばしば、大樹から精気をもらえる、そんな思いを抱かせてくれます。
万葉集にはタブノキをつまま(都(つ)萬(ま)麻(ま))として、大伴家持が詠んだ歌があり、序に、「澁谿(しぶたに)の崎に
過(よき)り、巌の上の樹を見る歌一首 樹の名は都萬麻」とあります。
磯の上の つままを見れば 根を延へて 年深からし 神さびにけり (万葉集巻第19-4159)
タブノキは沿海地に多く、大木は高さ20㍍以上になります。樹皮は暗褐色で縦方向に皮目や筋が入り、老木では細かい割れ目や凹凸が見られます。早春、芽鱗がピンク色に膨らみ、さらに伸び上って割れ、中から新葉が一斉に出てきます。紅色を帯びた若葉はあでやかで実に美しく、やがて光沢のある緑色に変わります。葉は厚い革質で互生して枝先に集まり輪生しているように見え、形状は長さ8~15㌢の倒卵状楕円形で縁に鋸歯はなく先端はやや尖り、裏面は粉白色を帯びます。他のクスノキ科の樹木と同じで、独特の芳香があります。5~6月、枝先の円錐花序に淡黄緑色の小さな花をつけます。果実は直径約1㌢の球形で、7~8月に黒紫色に熟します。タブノキは別名でイヌグス(犬楠・否楠)とも呼ばれていますが、材がクスノキに比較して劣っているわけではありません。タブノキからはクスノキのように樟脳は採れませんが、材は緻密で光沢があり、建築、家具や器具、楽器、彫刻材など幅広くに用いられ、かつては船材にも使用されたとされています。樹皮は染料としても利用されています。樹形がよくて光沢のある葉は美しく、街路樹や公園樹としても人気があります。
【写真&文:坪倉 兌雄】