江の島の植物・樹木≪ヤツデ≫
ヤツデはウコギ科の常緑低木で、江の島では参道わきの比較的明るい場所や、海沿いの山地や林などの日陰にもよく生育しています。
江の島の植物・樹木≪ヤツデ≫
2012年12月17日
ヤツデ(八手) Fatsia japonica ウコギ科ヤツデ属
ヤツデはウコギ科の常緑低木で、福島以南から四国、九州、沖縄に分布し、江の島では参道わきの比較的明るい場所や、海沿いの山地や林などの日陰にもよく生育しています。高さは3~5㍍で、葉柄は15~45㌢、葉は互生して厚く艶があり、掌状に開きます。葉の裂片は5~11裂に、日陰では光を得るために葉がより大きく、裂片も多くなる傾向が見られ、基部から伸びた葉脈がはっきりと見えます。葉は大形で長さ、幅ともに20~40㌢、裂片のふちには鋸歯があり、葉先は尖ります。
江の島の龍野ヶ岡自然の森に生えるヤツデと、
その果実(写真左下)
その果実(写真左下)
10~11月、茎の先に直径2~3㌢の球状の散形花序を円錐状に多数つけます。雌雄異花で、雄花と雌花があり、
直径はおよそ5㍉の小花で構成され、果実は径6~8㍉の球形で、翌年の4~5月に緑色から黒色に熟します。
直径はおよそ5㍉の小花で構成され、果実は径6~8㍉の球形で、翌年の4~5月に緑色から黒色に熟します。
雄花には花弁がつき、雌花(右上部)には花弁が無い
カミヤツデの葉は薄くて大きく艶がない
ヤツデは晩秋に花を開きますが、この時期は昆虫も少なく、晴れた日などハエやアブの仲間達が訪れて蜜を吸っているのをよく見かけます。ヤツデには両性花と雄花があり、散形花序を円錐状に多数つけますが、開花はその頂部から始まります。散形花序をご覧ください。2種類の異なった形をした花があることに気付きます。上部の花弁の無い球形をした花序は雌花で、その先端から5本の雌蕊が飛び出しています。下部の黄白色の花序は、5枚の花弁と5本の雄蕊をもつ雄花ですが、いずれも蜜を出して虫を呼び、自分の花粉を運んでもらう虫媒花です。両性花には雄性期(ゆうせいき)と雌性期(しせいき)があります。ヤツデの開花は円錐花序上部の両性花から始まり、最初の雄性期に雄花を開き(雄性先熟)、雄花の花弁と雄蕊が脱落すると、無性期を経て次に柱頭が伸びて雌性期に入り、今度は雌花を開きます。このように一つの花が時をずらして開花することにより、自家受粉(同花受粉)を避けることが出来るのです。
最後に咲いた花序は雄性期が終わると、雌性期に移行することなく枯れてしまいます。したがって雌花が咲いているのに雄花が無いという事態には至らないのです。果実は翌年の4~5月に黒く熟し鳥が食べて種子を散布します。ヤツデの葉や根にはサポニン系の有毒物質があり、虫に食い荒らされることはあまりなく、青々とした美しい葉を保つことから観葉植物としても栽培されます。民間療法では煎じた葉を浴槽に入れて入浴すると、リューマチに効果があるとされ、また生薬では葉を煎じて去痰薬として用いますが、過剰に摂取すると嘔吐、下痢、溶血などを起こす危険性があります。名前の由来は葉の切れ込みが多く、これを「八つ」に割れた手に例えて「八手」にしたものとされ、また天狗の葉団扇(テングノハウチワ)とも呼ばれています。島内には同じウコギ科で台湾・中国原産のカミヤツデ(紙八手)が野生化していますが、葉は大形で薄く艶はありません。カミヤツデの名は通草紙をつくったことに因みます。
【写真&文:坪倉 兌雄】
記事編集に際しては諸権利等に留意して掲載しております。 2019年3月10日