マルバウツギは江の島では裏参道わきなどの日当たりのよい場所に自生しています。
江の島の植物・樹木《マルバウツギ》
2013年5月14日
マルバウツギの葉は卵円形で葉脈は裏面に隆起し白い5弁花を開く
マルバウツギ(丸葉空木) Deutzia scabra ユキノシタ科ウツギ属 落葉低木
マルバウツギは日本固有種で、関東以西、四国、九州に分布し、江の島では裏参道わきなどの日当たりのよい場所に自生しています。樹高は1~1.5㍍で、樹皮は灰褐色で短冊状にはがれ、髄は中空になり、若枝は紫褐色を呈して星状毛が密生します。葉は対生し、長さ3~7㌢の卵形~卵円形で基部は円形または浅い心形、葉柄は短く0.2~0.5㌢で、花序のすぐ下の葉には柄がなく茎を抱きます。葉の先端はやや尖り、葉脈は裏面に隆起して、両面に砂粒のような星状毛がありざらつきます。
葉の縁には浅い鋸歯があります。 花期は5~6月、円錐花序に直径約1㌢の白い花を多数開き、花弁は5個です。雌蕊の花柱は3裂、雄蕊の花糸は10本、葯は黄色く角はありません。蒴果には星状毛が密生します。
裏参道入り口に咲くマルバウツギ
仲間のウツギの葉は長楕円形で花は密に垂れ下がる
江の島の駐在所前から裏参道(下道)へ向かう山側などでも、初夏には白い花を咲かせたマルバウツギを見ることができますが、参道わきの低木は雑木(柴)として定期的に刈り取られるために、樹高は低くマルバウツギの生育にとっては厳しい環境ともいえます。名前の由来はウツギの仲間で葉が丸いことから丸葉ウツギ、ウツギ(空木)とは幹の中心がウツロ(空洞)であることによるとされています。 「卯(う)の花の匂う垣根に、時鳥(ほととぎす)早も来て鳴きて、忍び音もらす夏は来ぬ…(佐々木信綱作詩、小山作之助作曲)」のメロディーで親しまれている「卯の花」は、同じユキノシタ科のウツギ(空木・Deutziacrenata)を指しますが、江の島には自生していません。ウツギの開花時期が旧暦の卯月(4月)にあたることから「卯の花」と呼ばれ、万葉集には24首詠まれています。
春去れば 卯の花ぐたし 我が越えし 妹が垣間は 荒れにけむかも(万葉集 巻10-1899)
うぐいすの 通ふ垣根の 卯の花の 憂(う)きことあれや 君が来まさぬ(万葉集 巻10-1988)
卯の花をウツギ(空木)として、茎が中空であることを最初に記述したのは、貝原益軒の編纂した「大和本草(1709刊行)」とされています。マルバウツギとウツギはいずれも雌雄同株で、形も似ていますが、樹高や、葉の形などで見分けることができます。ウツギの樹高は1.5~2㍍と高く、葉も長くて5~13㌢、卵状楕円形または披針形で先が尖ります。花は直径1~1.5㌢の5弁花で、花糸に狭い翼があります。また花は密に垂れ下がり、マルバウツギのように平開しません。ここではマルバウツギとウツギはともに、新エングラー体系によりユキノシタ科ウツギ属で紹介しましたが、クロンキストの分類体系や新しいAPG分類体系では、両者ともアジサイ科に分類されています。
【写真&文:坪倉 兌雄】
記事編集に際しては諸権利等に留意して掲載しております。 2019年3月10日