数年前、江の島龍野ヶ岡自然の森の入り口付近で、若いカップルの話し声を耳にしました。…ねえ、こんなところに桜が咲いているわよ?・・・
江の島の植物・樹木《ジュウガツザクラ》
2013年11月 19日 (写真&文:坪倉 兌雄)
ピンクの花は青空によく映える
ジュウガツザクラ(十月桜) Prunus×subhirtella cv. Autumnalis
バラ科サクラ属
数年前の11月上旬、江の島を散策中に、龍野ヶ岡自然の森の入り口付近で、若いカップルの話し声を耳にしました。
…ねえ、こんなところに桜が咲いているわよ? これ狂い咲きじゃん、温暖化のせいだよ。 そうかもね…サクラの返り咲きかな?と思い、カップルが過ぎ去ったあと近づいて見ると、紫褐色で横に細長い皮目のある、樹高3㍍ぐらいのまぎれもない桜の木でした。
上部のところどころに花がついていましたが、気をつけて見ないと見逃してしまうような小さな花でした。手にとって見ると八重咲きの美しい花で、この時期に咲く「ジュウガツザクラ」でした。それ以来、花の少ないこの時期には必ずと言っていいほど、この場所を訪ねてジュウガツザクラの花を愛でています。今年は例年にない猛暑が続き、8月下旬にはもう開花が見られました。
八重咲きの美しい花を開き雌蕊が長く突き出る
萼片は約3㍉で萼筒は壺形
5月中旬の若葉 葉は小型で長さ5~6.5㌢ 平成25年8月22日撮影
ジュウガツザクラの樹高は3~5㍍と低く、花もまばらに咲くことから、春に咲く他のサクラのような豪華さはありませんが、ピンク色の花が澄み切った青空によく映え、その美しい風情はなぜか心を引きつけ、和ませてくれます。このようなわび・さびの想いに浸るのも齢を重ねたことによるものなのでしょうか。ジュウガツザクラはマメザクラとエドヒガンの交雑種と推定されるコヒガンザクラの園芸種で、江戸時代後期から栽培されてきたとされています。二季咲性で10月から4月にかけて断続的に小さい花を咲かせますが、4月に咲く花がやや大きいようにも感じられます。花の色は白または淡紅色で花径は2~3㌢、花弁は10~20枚、雌蕊が長く突き出ます。萼片は長さ3~3.5㍉で縁に浅い鋸歯があり、萼筒は壺形で長さは約4㍉。葉は小型で長さ5~6.5㌢、両面に毛があり縁に鋸歯があります。この時期に開花するサクラには、コブクザクラ(子福桜)とフユザクラ(冬桜)があり、前者は八重咲きで花弁は白色の小型、後者のフユザクラは一重咲きであること、などから見分けることができます。
記事編集に際しては諸権利等に留意して掲載しております。 2019年3月22日