夏目漱石と明治日本 善行雑学大学第241回講座のテーマは『夏目漱石と明治日本』。示唆に富んだお話しでした。
善行雑学大学第241回講座『夏目漱石と明治日本』
2019年6月24日(取材・記事:Tanbakko)
善行雑学大学第241回講座のテーマは『夏目漱石と明治日本』。講師は元NHK解説委員・慶応義塾大学環境情報学部教授の赤木昭夫氏。専門は英文学・学説史ですが、NHKでは科学技術の分野を担当、SFCでは文系の学生に科学・技術を分かりやすく講義することに注力されました。本講座では、最も読まれている漱石の作品、『坊ちゃん』と『こころ』をとり上げて、漱石がその作品にこめた「隠されたメッセージとは何か」を分かりやすくお話しいただきました。
漱石がその作品にこめた「隠されたメッセージとは何か」を分かりやすくお話しいただきました。
今の日本は長期停滞に陥っています。日本銀行が異次元の金融緩和をしても経済は上向きません。なぜこうなったのでしょうか。それは明治日本をみてみればよくわかるというのが、本日のお話しの骨子です。
明治日本は「文明開化・富国強兵」を旗印に、軍備拡張と生産の量的拡大のみを行ない、その質的内容は問わないという路線を歩んできました。その分岐点となったのが日露戦争(1904年-1905年)でした。
日本は量的拡大・質的進化軽視の路線を戦前も戦後も歩んできました。債務残高はバブル崩壊後急激に増加し戦前の水準を超えました。(※画像は配付されたレジュメより引用・転載しました。)
夏目漱石の『坊ちゃん』は日露戦争後の1906年に発表されました。日露戦争の講和条約=ポーツマス条約に反対する日比谷焼打事件が起こったのが前年の1905年。漱石は『坊ちゃん』という作品で、当局の検閲をかいくぐり発禁処分を受けないように工夫をこらしながら、山県有朋に代表される腐敗まみれの元老政治が続いていけば日本の将来は危ういというメッセージをひそませているのではないかというのが、赤木先生のお話しの一つのポイントでした。
時にはユーモアも交えた講義に多くの聴講生が熱心に耳を傾けました。
漱石の文庫本で一番売れているのが『こころ』です。1914年に朝日新聞に連載されました。第一次世界大戦勃発の年です。
「忠君愛国・立身出世」に代表される「修養」主義で人間精神が圧迫されている明治日本は、日露戦争後から軍国主義にひた走りました。このままでは日本は滅びてしまうよと警告を発したのが漱石でした。「こころ」という小説はそのようなメッセージをひそませている小説として読むことができるのではないか、というのが本日のお話しのもう一つのポイントでした。
【講演を聞いて】
レジュメを見ていきなりリチャード・クーの最新刊『「追われる国」の経済学』が紹介されていました。リチャード・クーと夏目漱石・明治日本がどのような関連があるのか?最初はとまどいを覚えました。しかし、夏目漱石が『坊ちゃん』や『こころ』という作品を通して伝えようとした「隠されたメッセージ」が、今という時代にもつながっているということをお話しいただき大変勉強になりました。漱石の作品を読むときの楽しみが一つ増えたように思いました。
善行雑学大学のホームページ⇒https://zengyo-zatsugaku.jimdofree.com/
記事編集に際しては諸権利等に留意して掲載しております。 2019年6月22日