続・湘南のお地蔵さま『永仁地蔵』
2023年11月09日 (江ノ電沿線新聞)
続・湘南のお地蔵さま(83)『永仁地蔵』
箱根町 芦之湯 中島淳一
箱根湯本駅よりバスに乗り六道地蔵で下車。近くの精進池周辺には中世の磨崖仏(国重文)が点在する〝元箱根石仏群〟があり、私たちを七百年前の現世と冥土との境界へ誘う。石仏群には以前紹介した「六道地蔵」、「火焚き地蔵」等が所在し、また二十四体の地蔵菩薩と阿弥陀如来、供養菩薩各一体で構成される二十五菩薩がこの中世地蔵ワールドをさらに賑やかなものにしている。
二十四体の地蔵の中に彫技に優れた美しい像が並んで三体あるが、いずれもこの地を通る旧街道(湯坂道)に面している。像の大きさは約六十五センチから九十センチで、左の二体には石のひさしがはめ込まれ、以前は六道地蔵と同様に覆屋が存在したらしい。この二体の横には銘文が刻まれ造像年と思われる永仁元年(一二九三)の年記が記されている。火焚き地蔵が銘文中の年記から別名「応長地蔵」と呼ばれるので、私もこの二体を「永仁地蔵」と呼ばせていただく。
程なく精進池西側の山が錦秋に染まるが、かつてはその山の向こうに冥土があると信じられ、亡き人々の供養が永くここで営まれてきた。今その美しい風景を眺めることのできる私たちも含め、お地蔵さまは「あまさず、もらさず」救ってくださる。