続・湘南のお地蔵さま(85)『濡れ地蔵』
2024年1月22日 (江ノ電沿線新聞)
続・湘南のお地蔵さま(85)『濡れ地蔵』
横浜市 石川町 中島淳一
石川町駅南口改札を出て左に少し行くと亀の橋があり、そこから高台に向かって長い坂が続く。この坂が地蔵坂で、その名前の由来となったお地蔵さまが橋のたもとに祀られ濡れ地蔵と呼ばれる。
この坂は約四百メートルも続く急坂で昔は市の中心部から本牧・根岸方面へ抜ける重要な道だった。そのため道の両側には沢山の商店が軒を連ね、現在の松屋百貨店の前身である鶴屋呉服店もあった。しかし昭和初期、近くに山手隧道(トンネル)が完成し、地蔵坂周辺の様子は一変した。
濡れ地蔵は、元々は地蔵坂の途中に祀られていたが、平成十三年に他の地蔵尊と共に現在の場所に安住の地を得た。中央の大きな像が濡れ地蔵で、昭和五十四年に地元民によって再興された。力強く剛健な姿で優しく地域を見守る。
この名前の由来だが、根岸に住む娘が身売り先から逃げ、この地蔵の前で一息ついた後に海に身を投げた。翌朝地蔵は水で濡れ海藻が体についていたために娘の魂が地蔵に乗り移ったといわれたことからこう呼ばれたと伝わる。
外国人が横浜に居留していた頃の悲しい話だが、後日談がありその娘にそっくりな子が杉田梅林の茶屋で働くのを見たという話も伝わる。救われた娘の清らかな涙でお地蔵さまは濡れ地蔵となったのかも知れない。