続・湘南のお地蔵さま(93)『巾着を持つおしゃれ地蔵』
2024年9月9日 (江ノ電沿線新聞)

続・湘南のお地蔵さま(93)『巾着を持つおしゃれ地蔵』
茅ヶ崎市 下寺尾 中島淳一
茅ヶ崎駅から文教大学行のバスに乗り「北方」で降りると、近くに曹洞宗の名刹白峰寺がある。この寺は室町時代の創建で、江戸時代初めに大坂町奉行を務めた地元の松平氏により中興された。以後観音信仰の霊場として、近隣だけでなく江戸の人々からも篤く信仰されたようである。
本堂横に建つ地蔵堂の前に一体の石のお地蔵さまが祀られる。舟形の光背をつけ大きな耳と彫りの深さが印象的なお顔をしており、法衣の表現も丁寧である。最も特徴的なのはその持物で、多くの地蔵尊は右手に錫杖左手に宝珠を持つ。この像も右手は同じだが、左手にはかわいい巾着を持つのである。
私もこの姿の像には初めて出会ったが、なぜ巾着を持つのだろうか。定番の持物である宝珠は人々の願いを叶え、衣服や飲食を与えてくれる霊力を持つといわれる。同じように江戸時代の人々は祈願成就のお守りや大事なお金を巾着に入れ持ち歩いた。真意は謎だが、石工の粋な遊び心なのだろうか。
江戸後期の浮世絵師菊川英山のある作品に、母親と赤い巾着を腰に付けた子どもが仲睦まじく描かれている。当時の母親は我が子の命を守りたいがために巾着にお守りや迷子札を入れて持たせた。その親心は、子どもたちが元気で育つよう見守るお地蔵さまと同じ慈悲の心である。