続・湘南のお地蔵さま(97)『機織(はたおり)地蔵』
2025年1月20日 (江ノ電沿線新聞)

続・湘南のお地蔵さま(97)『機織(はたおり)地蔵』
横浜市 桂台南 中島淳一
大船駅よりバスに乗り桂山公園で下車。この桂台地区は鎌倉市との市境に接する丘陵地で、昭和四十年代頃に開発された大きな戸建住宅地である。公園内に残された小高い丘の中腹にやぐらのような祠があり、その中に「機織地蔵」が祀られる。元は違う場所にあったが、開発に伴い富士山のきれいに見える現在の地に遷った。上部を欠失した舟形光背を付け、そこには貞享三年(一六八六)に公田(くでん)村の人々により造立されたことが記されている。
この地蔵尊の特徴はその持物で、通常は右手に錫杖左手に宝珠だが、右手に刀杼(とうじょ・とうひ)、左手に糸玉を持つ。刀杼とは機織機でたて糸の間によこ糸を通しつつ打ち込みをする道具で、地蔵尊の胸の高さから足元までの長さがあり、真ん中によこ糸を納めるくぼみがある。このように機織に関連する持物を持つ地蔵菩薩は大変珍しく貴重である。
同じ菩薩の中に馬鳴(めみょう)菩薩という尊像がいて、蚕神とも称し貧窮の衆生に衣服を与え、養蚕・機織の神として祀られる。手には繭秤、蚕、桑の枝、糸巻など養蚕に関するものを持ち、共通する特徴が多い。
この機織地蔵がどんな願いや目的で造られたのかは定かでないが、機織機やその道具を命と同等に大切にしていた人々の感謝の気持ちをひしと感じる。