続・湘南のお地蔵さま(99)『茶屋薬師堂の六地蔵』
2025年3月7日 (江ノ電沿線新聞)

続・湘南のお地蔵さま(99)『茶屋薬師堂の六地蔵』
二宮町 山西 中島淳一
二宮駅からバスに乗り押切坂上で下車し、国道を渡ると茶屋薬師堂がある。駅が開業するまではこの辺りは東海道沿いの賑やかな場所で、茶屋も軒を連ねていたことから、茶屋町の名が付いたという。
薬師堂には像高二六二センチの江戸時代に造られた大きな薬師如来坐像などが安置され、今でも地域の方々に信仰されている。また境内に石造物群が祀られるが、その中の六地蔵は「歩く地蔵さん」といわれ、面白い話が伝わる。
ある朝、地元の農家の嫁さんが玄関の戸を開けると、六体の地蔵尊がこちらを向き立っているのである。驚いて家族を呼ぶと、おじいは薬師堂の六地蔵がいるかどうかせがれに見に行かせたが、そこはもぬけの殻だった。そこで家族はその六地蔵を元の場所に運んだが、おじいには思い当たることがあった。
この地域では昔から、お祭りの寄付や薬師堂の修繕費のことで文句を言うと、その家の前に六地蔵が立つという言い伝えがあった。今回のことはいたずらなのか、仏罰なのかは定かでないが、この話は町内に広まり、それからは文句を言う人はいなくなったそうである。
いたずらならばお地蔵さまも迷惑な話だが、仏罰とまでいわれると、六地蔵は本当に他の場所に歩いて行ってしまうかもしれない。