江の島の植物・チャボトウジュロ
2025年05月20日 (坪倉兌雄)

チャボトウジュロ(矮鶏唐棕梠)Chamalrops humilisはヤシ科チャボトウジュロ属の常緑低木で雌雄異株、原産は西部および中央地中海地域とされています。我が国へ渡来した時期は明らかではありませんが、江の島ではサムエル・コッキング苑に、チャボトウジュロを見ることができます。棕梠の木に年輪はなく幹の太さは変わりませんが、成長点が天辺にあり分枝はありません。したがって幹をきると枯れてしまいます。樹高は2~3㍍に、幹は直立して、その表面を古い褐色を呈した葉鞘繊維(シュロ毛)が覆っています。葉は幹の頂部につき、掌状複葉で10~20本の小葉が扇形に広がります。葉柄は3角形で縁に鋭い針のような刺で覆われ、長さは約1㍍。扇状についた葉の直径は約90㌢、深く切れこんだ裂片は折れ曲がることなく伸びて、その先端は小さく2裂します。





チャボトウジュロは雌雄異株で花期は5~6月、頂上近くの葉の基部から黄色い肉穂花序を出し黄白色の花を多数付けます。肉穂花序とは、多肉花軸の周囲に柄のない花を多数密生したものをいいます。雄株には雄しべが6~9本あり、雌株には雌花と両性花がつき、肉穂花序は黄色の仏炎苞で包まれます。果実は液果で直径約1㌢の偏球形、9~11月に青黒に熟します。剪定の必要がほとんどなく、手入れが簡単であり鉢植えなどで育てることができます。名前の由来は、「シュロ(棕梠)に似るが矮性種であることから、チャボを冠してチャボトウジュロ(矮鶏唐棕梠)になった」などの説があります。海に囲まれた江の島では、各種のシュロ科の樹木があり、特に広場や車道わきなどで見られるシュロの高木は美しい景観をつくります。棕梠毛の繊維は強靭で、縄や網、束子(たわし)の材料に、新葉は草履や下駄などの鼻緒などに用いられています。かつて農家では縄や蓑などに、刺の無い葉柄をもつ棕梠の葉先は切りとって蠅叩きにして用いました。
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