続・湘南のお地蔵さま(103)『日之下地蔵』
2025年7月7日 (江ノ電沿線新聞)

続・湘南のお地蔵さま(103)『日之下地蔵』
相模原市下溝 中島淳一
原当麻駅から東へ八百メートル程の下溝(しもみぞ)交差点から川沿いに南へ暫く行くと、二体の日之下地蔵に出会う。この地蔵尊は二つの川に挟まれた住宅地の一角にあり、共にお堂に祀られ由緒を記す石碑も立つ。大きなお堂には右手に錫杖、左手に宝珠を持つ新しい像が、小さなお堂には歴史を感じる姿の像が祀られる。
日之下地蔵はこの地の領主北条氏照の娘山中貞心尼が、幼い時に亡くした娘松姫の供養と、この地域の幼い子女が成人まで無事育つようにとの祈念も込めて1580年頃に建立した子育地蔵と伝わる。
またこの辺りは水利の便が乏しく、農民たちは晴天が続くと地蔵尊を近くの道保川の水に浴し雨が降るのを願った。近隣の地区にも同様の像が祀られ、共に雨乞い地蔵と呼ばれる。日照りを恐れる農民の気持が痛いほど伝わる。
日照りに関して忘れられない話がある。昔、大雨の日私が拝観の予約をした寺へ伺うと、住職は雨が止むようにとお経をあげてくれていた。しかし一向に止む気配がない。不思議に思い目の前の経本を見ると、間違えて日照りの時に雨が降ることを祈る請雨(しょうう)経を唱えていたという笑い話だが、ずぶ濡れで落胆した私の心を、笑いと共にしっかりとつかんだ。まるでお地蔵さまの慈悲の心のように。