続・湘南のお地蔵さま（106）『称名寺の吉六延命地蔵』
2025年10月8日 (江ノ電沿線新聞）
続・湘南のお地蔵さま（106）『称名寺の吉六延命地蔵』
横浜市 金沢町
（取材：中島淳一）
金沢文庫駅から東へ十五分程で称名寺惣門（赤門）がある。この寺は鎌倉幕府第三代執権北条泰時の甥実時（さねとき）が居館内に営んだ持仏堂がその始まりと伝わる。その後数代にわたり寺の整備が進み、鎌倉時代末に庭園を伴う荘厳な弥勒浄土を模した伽藍を完成させた。
しかし鎌倉幕府の崩壊により堂塔の維持は困難となり、現在は金堂、釈迦堂、庭園等を残すのみだが、いにしえの面影を留める。隣接の県立金沢文庫は、好学だった歴代当主や住職により蒐集（しゅうしゅう）された貴重な書籍・仏典等を今に伝える。
山門手前に塔頭寺院で運慶仏を所蔵する光明院があり、その表門の前に石造の延命地蔵が祀られる。基壇上の蓮華座に坐し、右手に錫杖左手に宝珠を持ち頭光を伴う。穏やかなお顔で、衣文の流れも美しく衣の裾を台座に垂らす表現まで丁寧に掘り出している。銘文によりこの像は横浜鶴見の石工飯嶋吉六が一八三四年に造ったもので、この「石工吉六」の名は鶴見で江戸時代中期から幕末まで十一代続いた有名な石工名で、狛犬や鳥居、石仏等を得意とした。
ある研究者が「石工の技術は地域の文化」と述べていたが、この像の前に立つと歌舞伎役者のみならず、石工であっても名前を世襲する責任の重みを痛いほどに感じる。
