創作版画の系譜- 茅ヶ崎市美術館明治末、山本鼎によって誕生した創作版画を紹介する企画展が茅ヶ崎市美術館で開催されている。
「創作版画の系譜 青春と実験の季節」ー茅ヶ崎市美術館
2019年2月21日 (itazu)
明治末、山本鼎によって誕生した「創作版画」の世界を紹介する企画展が茅ヶ崎市美術館で開催されている。会期2019年2月10日(日)~3月24日(日)
開館20周年を記念し今年度「版の美」をテーマに、日本の浮世絵や小原古邨など木版画を展示して来たが、シリーズ最後の展示として「創作版画」が企画された。
山本鼎「漁夫」(上田市美術館所蔵) 山本鼎「水浴」(同左) 石井柏亭「木場」(横浜美術館所蔵)
伝統的な木版画は分業で制作されたのに対し、「創作版画」は作者自ら描き、彫り、摺る作品として一般に定義づけられている。山本鼎や石井柏亭らによって提唱され、版画は絵画の複製ではなく、画家の創意が反映された作品を重視する運動だった。
石井鶴三が描いた「漁夫を彫る鼎」(対談のスライドによる)
山本鼎の創作版画誕生の歴史に関して、2月16日、上田市博物館館長の滝沢正幸氏と茅ヶ崎市美術館館長の小川稔氏との対談イベントがあり、山本鼎の記念碑的作品「漁夫」誕生の経緯や、当時の若い芸術家たちによって創作版画を芸術ジャンルとして確立してゆくプロセスなどが紹介された。今回の展示の山本鼎の作品のほとんどが、鼎の第二の故郷である上田市美術館の所蔵である。
上田市博物館館長の滝沢正幸氏(右)と茅ヶ崎市美術館館長の小川稔氏(左)
大正期、山本鼎が仲間と主に発行した雑誌「方寸」、長谷川潔や詩人たちの文芸誌「假面」、田中恭吉、恩地孝四郎、藤森静雄の詩画集「月映(つくはえ)」などの出版活動を通して、若い芸術家たちは同時代を仲間と共有するために版画を有力な手段として、新しい芸術運動の実験を進めていった。こういった作品などから創作版画運動の青春群像を伺うことができる。
長谷川潔「女の胸像」(横浜美術館所蔵) 田中恭吉「去勢者と緋罌粟(ひけし)」恩地孝四郎「わかれとのぞみと3」(須坂版画美術館所蔵)
また特筆すべきことは、山本鼎は、創作版画の運動を児童自由教育や農民美術へ展開したことである。「お手本を写す」といった考えから、「自由に描く」という現在では当たり前のことが、大正期以降の新しい思潮の影響の下、これらの運動を通して、広く民衆や子供たちに定着していった。
児童自由教育や農民美術へ展開(対談のスライドによる)
創作版画は、石井柏亭が鼎の「漁夫」の作品について語ったようにまさに「刀を筆とする」芸術であり、一人一人の創作表現方法として独特の魅力のある芸術である。このことを、今回の展示を通して再認識することができた。
今回展示の公式サイトはこちら→
http://www.chigasaki-museum.jp/exhi/2019-0210-0324/
http://www.chigasaki-museum.jp/exhi/2019-0210-0324/
記事編集に際しては諸権利等に留意して掲載しております。 2019年02月21日