記憶・学習のメカニズムと認知症善行雑学大学で『記憶・学習のメカニズムと認知症』というお話しをお聞きしました。
善行雑学大学『記憶・学習のメカニズムと認知症』
2019年11月4日(取材・記事:Tanbakko)
善行雑学大学第245回講座のテーマは『記憶・学習のメカニズムと認知症』。講師は横浜市立大学の竹居光太郎教授。神経系の発生と再生の研究を行なっています。
脳はどうやって覚えたり勉強したりするのか? 神経ネットワークのできる仕組みの説明からはじまり、学習や記憶のメカニズム(「記憶する」とは?)、記憶の障害のメカニズム(「忘れる」とは?)と認知症のお話し、そして竹居教授の最新の研究成果まで、幅広くお話しいただきました。
講演テーマは『記憶・学習のメカニズムと認知症』
講演の概要は以下のとおりです。
●神経ネットワークのできる仕組み
私たちの脳は約1兆個の細胞、そして約1000億個の神経細胞から成り立っています。これらの神経細胞は沢山の突起を伸ばしてお互いが結合し合い、複雑なネットワークを形成しています。神経細胞と神経細胞の結合部は「シナプス」とよばれ、記憶や学習の過程で「シナプス」が新たに作られたり強まったりすることが知られています。
約1000億個の神経細胞がネットワークを形成しています
●「記憶する」とは? 学習や記憶のメカニズム
私たちの脳は、新しい刺激(環境変化)を経験することにより、新しい反応(適応反応)をします。新しい反応がずっと続くことにより、学習し記憶します。学習の種類には、「慣れ」「条件反射」「オペラント学習」などがあります。
記憶は、「記銘:ものを覚える(コード化)」、「保持:覚えていること(固定化→貯蔵)」、「想起:覚えていることを思い出す(検索)」に分類されます。また、記憶の保持時間による分類や、「(言葉にできる)陳述記憶」、「(言葉にできない)非陳述記憶」といった分類もあります。
私たちの脳は、新しい刺激(環境変化)を経験することにより、新しい反応(適応反応)をします。新しい反応がずっと続くことにより、学習し記憶します。学習の種類には、「慣れ」「条件反射」「オペラント学習」などがあります。
記憶は、「記銘:ものを覚える(コード化)」、「保持:覚えていること(固定化→貯蔵)」、「想起:覚えていることを思い出す(検索)」に分類されます。また、記憶の保持時間による分類や、「(言葉にできる)陳述記憶」、「(言葉にできない)非陳述記憶」といった分類もあります。
記憶にはいろいろな種類があります
●記憶はどこにあるか
記憶が形成され固定される場所は、脳のなかの「海馬」と呼ばれる場所です。そして「大脳皮質の側頭葉」という場所に記憶が保持されます。
記憶が形成され固定される場所は、脳のなかの「海馬」と呼ばれる場所です。そして「大脳皮質の側頭葉」という場所に記憶が保持されます。
“海馬”で記憶を作り、“大脳皮質”で記憶を保持します
記憶の固定に関しては睡眠との関係が重要です。睡眠時に出る脳波、すなわちシータ(Θ)波は記憶を保持するのに役立ちます。「寝る子はよく育ち、よく覚える」です。「夢を見て覚える」、「感情が伴うとよく覚える」ということも知られています。
シナプスの変化が記憶に与える影響も知られています。シナプスが強化されると記憶の形成につながり、シナプスが弱まると記憶が消去されます。これを「シナプスの可塑性」といいます。
シナプスの変化が記憶に大きな影響を与えます
●「忘れる」とはどういうことなのか?
細胞レベルでシナプスが小さくなったり、数が減少すると「記憶の消去」という現象が起こります。“忘れる”とは、「覚えられない(記銘の失敗)」、「思い出せない(想起の失敗)」といった現象のことです。これには「老齢化」によるものと「病的」なものとがあり、その違いを認識しておくことが大切です。
細胞レベルでシナプスが小さくなったり、数が減少すると「記憶の消去」という現象が起こります。“忘れる”とは、「覚えられない(記銘の失敗)」、「思い出せない(想起の失敗)」といった現象のことです。これには「老齢化」によるものと「病的」なものとがあり、その違いを認識しておくことが大切です。
老化と認知症の違いを認識しておくことが大切です
●アルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)
“病的に忘れる”という現象の代表例として、アルツハイマー病をとり上げます。アルツハイマー病は脳の委縮によって起こります。脳に老人斑が形成され、神経原線維が変化することにより病状が進行します。老人斑の形成には、アミロイド-ベータ(Aβ)という物質が、また神経原線維の変化にはタウ(Tau)という物質が関係しています。アルツハイマー病の発症阻止のためにはAβを作らせない方法を見つけ出すことが必要です。
“病的に忘れる”という現象の代表例として、アルツハイマー病をとり上げます。アルツハイマー病は脳の委縮によって起こります。脳に老人斑が形成され、神経原線維が変化することにより病状が進行します。老人斑の形成には、アミロイド-ベータ(Aβ)という物質が、また神経原線維の変化にはタウ(Tau)という物質が関係しています。アルツハイマー病の発症阻止のためにはAβを作らせない方法を見つけ出すことが必要です。
Aβを作らせない方法が世界中で鋭意研究されています
●アルツハイマー病の発症阻止に向けての竹居教授の研究
アルツハイマー病の発症阻止に向けて竹居教授も研究を続けています。そして研究の成果として、神経回路をつくる「LOTUS」という新しい物質を発見しました。これは、神経の再生を促進させる物資で、脊髄損傷や脳梗塞の治療薬の候補となる物質です。
アルツハイマー病の発症阻止に向けて竹居教授も研究を続けています。そして研究の成果として、神経回路をつくる「LOTUS」という新しい物質を発見しました。これは、神経の再生を促進させる物資で、脊髄損傷や脳梗塞の治療薬の候補となる物質です。
神経回路をつくる「LOTUS」という新物質を発見!
「LOTUS」には、「シナプス形成を促進する」、「記憶を亢進する」、「Aβ作用を抑制する」といった効果が期待されます。一方、「LOTUS」は加齢によって減少します。従って、「LOTUS」の減少を防ぐことができれば、記憶力の低下を防ぐことができ、認知症の予防につながることが期待できます。
「LOTUS」の減少を弱める薬が開発されれば、アルツハイマー病の予防薬になるのではないかと考えられます。
「LOTUS」の減少を弱める薬が開発されれば、アルツハイマー病の予防薬になるのではないかと考えられます。
「LOTUS」はアルツハイマー病の予防薬として有望
●最後に、記憶力を高める「お土産話」を!
記憶力を高める方法をいくつかを「お土産話」としてお話しいただきました。
・感情を伴って覚える「面白い!楽しい!」
・好奇心、探究心をもって覚える「なるほどそうなのか!」
・エピソード記憶による強化「印象づける、人に説明してみる」
・睡眠と夢による強化「勉強したらよく寝る(徹夜は止める)」
・反復による強化「間隔を空けて復習する」
・カテゴライズによる強化「語呂合わせ、法則性の利用」
・手続き記憶による強化「何かの動作を伴って覚える。例えば、できるだけ綺麗な字で書く」
記憶力を高める方法をいくつかを「お土産話」としてお話しいただきました。
・感情を伴って覚える「面白い!楽しい!」
・好奇心、探究心をもって覚える「なるほどそうなのか!」
・エピソード記憶による強化「印象づける、人に説明してみる」
・睡眠と夢による強化「勉強したらよく寝る(徹夜は止める)」
・反復による強化「間隔を空けて復習する」
・カテゴライズによる強化「語呂合わせ、法則性の利用」
・手続き記憶による強化「何かの動作を伴って覚える。例えば、できるだけ綺麗な字で書く」
まとめると“楽しく、好奇心を持って、語呂合わせや綺麗な字を用い、復習し、人に話し、よく寝る”となります。座右の銘にしたいものです。
質疑応答も活発で講演テーマへの関心の高さがうかがわれました
【講演を聞いて】
大変有益なお話しを聞くことができました。理路整然と分かりやすくお話しいただき勉強になりました。質疑応答も活発で講演テーマへの関心の高さがうかがわれました。「LOTUS」研究が進展して、アルツハイマー病の予防薬が開発され実用化されるといいですね。2020年3月には竹居教授による2回目の講演『失われた脳機能を回復』も予定されています。次回も有益なお話しを期待したいと思います。
大変有益なお話しを聞くことができました。理路整然と分かりやすくお話しいただき勉強になりました。質疑応答も活発で講演テーマへの関心の高さがうかがわれました。「LOTUS」研究が進展して、アルツハイマー病の予防薬が開発され実用化されるといいですね。2020年3月には竹居教授による2回目の講演『失われた脳機能を回復』も予定されています。次回も有益なお話しを期待したいと思います。
善行雑学大学のホームページ⇒https://zengyo-zatsugaku.jimdofree.com/
記事編集に際しては諸権利等に留意して掲載しております。 2019年11月04日