江の島の植物・ノキシノブ
江の島では参道わきの半日陰など、やや湿り気のあるところで見ることができます
江の島では参道わきの半日陰など、やや湿り気のあるところで見ることができます
江の島の植物・ノキシノブ
2022年04月30日 写真&文:坪倉 兌雄
ノキシノブ(軒忍)Lepisorus thunbergianusはウラボシ科ノキシノブ属の常緑のシダ植物で、わが国では北海道南部から本州、四国、九州、沖縄に分布します。江の島では参道わきの半日陰など、やや湿り気のあるところで見ることができます。樹幹や岩石などに着床し、走出枝(ランナー)は横走りに伸び、葉を伸ばして増えます。葉は単葉で細長く革質で黄緑色、長さ10~30㌢、幅0.5~1.5㌢で、葉先は細くなり先端は鈍頭、葉の基部も細くなります。葉柄の長さは約2㌢。ソーラス(胞子嚢群)は葉裏の上半分に円形にまとまり、包膜はなく主脈をはさんで2列につきます。シダ植物は種子植物と異なり、繁殖は胞子で行うことから、花はなく種子もできません。ノキシノブは地面ではなく、樹幹や岩などに着床して成長することから着生植物とも呼ばれています。
ノキシノブは根を土に降ろすことなく、岩や樹木の幹などに着床して生育します。かつて昭和の40年代までは茅葺の家が各地で多く見られ、古い屋根や軒下などに生育するノキシノブを見ることができました。名前の由来は、土壌のない軒などで耐え忍び、生育することからノキシノブ(軒忍)になったと考えられています。また葉裏のソーラスが美しくこれを星に見立て、金星草、七星草、落星草などの別名があります。鎌倉前期の天皇で、承久の乱(1221年)に敗れて佐渡に配流された順徳天皇の有名な歌に、“百敷や 古き軒端の しのぶにも なほあまりある むかしなりけり” があり、小倉百人一首でもよく知られています。万葉集には、ノキシノブの古名「しだくさ」で詠まれています。
我が屋戸の 軒のしだくさ 生いたれど 恋わすれぐさ 見るにいまだ生ひず
巻十一 ニ四七五、柿本人麻呂歌集
我が屋戸の 軒のしだくさ 生いたれど 恋わすれぐさ 見るにいまだ生ひず
巻十一 ニ四七五、柿本人麻呂歌集
記事編集に際しては諸権利等に留意して掲載しております。 2022年04月30日