江の島の植物・ミツマタ
2025年01月20日 (坪倉兌雄)
ミツマタ(三椏)Edgeworthia chrysantha はジンチョウゲウゲ科ミツマタ属の落葉低木で、原産は中国~ヒマラヤとされ、わが国には慶長年間(1596~1615)に、紙をつくる材料として中国から渡来したとされています。しかし、万葉集(7~8世紀)に詠まれている三枝(サキクサ)はミツマタである、との説もあり、渡来の時期は定かではありません。ミツマタの樹皮は灰色~茶褐色で、枝はよく3つに分枝し、樹高は1~2㍍、樹形は半球形。葉は単葉で螺旋状に互生し、葉柄の長さは5~10㍉、葉身は長さ5~18㌢、幅2~5㌢の長楕円形~披針形でふちは全縁、先端はとがり、基部はくさび形で、表面は緑色。晩秋には休眠期に入り落葉します。10月の初旬、枝先に蕾がつきますが、開かないで蕾の状態で越冬します。翌年の3~4月、葉に先だって開花し、3~4㌢の頭状花序になって、30~40個の小さな花を球状につけます。
花は両性で花弁はなく、筒状の萼片が集まったもので、長さは8~15㍉になります。萼片の先端部分は黄色で4裂に、その裂片は反りかえり、花びらのように見え、外側は細毛に覆われて白く、雄しべが数本と雌しべがあります。果実はそう果で萼片に包まれます。名前は、新枝が3本に分かれることに由来。樹皮の繊維は強くて皺になりにくく、高級和紙の原料や1万円札などの紙幣に使用されています。ミツマタの変種とされるアカバナミツマタ(赤花三椏)は、2~4月に球状の赤い花をつけます。万葉集に、ミツマタ(三枝)を詠んだ詩があります。しかし、ミツマタは「本草和名」や「和名抄」など、古典文献に記載がなく、日本には慶長年間(1596~1615)に中国から渡来したものとし、万葉集に詠まれたミツマタは、三つの枝がはっきりしている多年草の「イカリソウ(碇草)」を詠んだものである。との説もあります(参考文献・万葉植物文化誌)。
春されば まづ三枝(さきくさ)の 幸(さき)くあらば 後にも逢はむ な恋ひそ我(わぎ)妹(も) (巻十 一八九五、 柿本人麻呂)
【写真&文:坪倉 兌雄】
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