タチツボスミレは日本全土に分布する多年草で、江の島では島内の至る所で観察できます。
江の島の植物・野草≪タチツボスミレ≫≫
タチツボスミレは日本全土に分布する多年草で、山野、田んぼの畦道や道端などでごく普通に見ることができ、江の島では島内の至る所で観察できます。
本種は茎が高く伸びあがり、托葉が櫛状に切れ込む特徴があります。花びらは5枚で上部の2枚を上弁、左右の2枚を側弁、下の1枚は唇弁(しんべん)と呼び、唇弁には美しい筋があります。
花の後ろ側に延びた管状突起部を距(きょ)といい、中に蜜腺があり昆虫を誘います。
茎が高く伸びあがり托葉が櫛状に切れ込む
花蜂のからだには毛が密生しており花粉が付きやすく、花蜂が蜜を吸うために、タチツボスミレの唇弁側から距へくちばしを入れるとき、花粉の付着した頭部が、距の入り口にある雌蕊(しずい)の柱頭に触れて受粉が成功します。
日本に自生するスミレは60種近くあるとされていますが、タチツボスミレのように茎が立ち上がるもの、スミレやノジスミレなどのように茎が立ち上がらないものなどがあります。タチツボスミレの近縁種に、花に芳香をもつニオイタチツボスミレ、葉が細長いナガバノタチツボスミレ、北海道や中部地方以北の山地に生えるアイヌタチツボスミレなどがありますが、いずれも江の島には自生していません。そのほか日本海側にはオオタチスミレ、テリハタチツボスミレなどが分布しています。
花被片の後ろの管状突出部が距
スミレの語源には、ツミクサ(摘草)又はツミイレグサ(摘入草)からの転訛、大工道具の墨入れ(壺)の出っ張りがスミレの距に似るので、スミイレ(墨入れ)がスミレへと転訛した、などの諸説があり、タチツボスミレのタチは茎の立ち上がる様を、ツボは坪(壺)で垣根に囲まれた場所、庭や道端などを指したものとされています。地域によってはスモウトリグサとも呼ばれていますが、タチツボスミレが群生する江の島の自然豊かな龍野ヶ岡に佇むと、スミレの花茎の先端をからませ引き合って遊んだ、子供の頃の懐かしい思い出が彷彿としてよみがえります。万葉集にスミレを詠んだ歌が4首ありますがここでは春の雑歌(ぞうか)2首を紹介します。
春の野に すみれ摘みにと 来し吾そ 野を懐かしみ 一夜寝にける (巻八-1424 山辺赤人)
山吹の 咲きたる野辺の つほすみれ この春の雨に 盛りなりけり (巻八-1444 高田女王)
岩場の割れ目に咲くタチツボスミレ
タチツボスミレの地下茎は短く木質化して横に這い、茎は枝分かれして株をつくり高さ5~15㌢になりますが、花のあとさらに茎は伸びて約30㌢に達します。根性葉には長い柄があり、心形で長さ1~4㌢、葉の上部は三角状、托葉は被針形でふちは櫛状に深裂します。花期は3~5月、葉の間から立ち上がった花茎の先に、うつむいた状態に花をつけます。花の径は1.5~2.5㌢で淡い紫色ですが、変化も多く見られます。距の長さは6~8㍉になります。
江の島の日当たりのよい歩道わきや石垣などで、ときどきスミレやノジスミレを見ることがありますが、これらの葉はいずれも長楕円状被針形です。スミレの花は濃い紫色ですが、ノジスミレの花は淡紅色や青みのある紫色などがあります。