江の島の植物・樹木≪エノシマキブシ≫
キブシは日本原産で、山中や丘陵地など、やや湿った場所に普通に生える雌雄異株の落葉性低木です。
キブシは日本原産で、山中や丘陵地など、やや湿った場所に普通に生える雌雄異株の落葉性低木です。
江の島の植物・樹木≪エノシマキブシ≫
2012年5月19日
エノシマキブシ(江の島木付子・木五倍子) Stacjuirus praecox var. ovalifolius キブシ科キブシ属
キブシは日本原産で、北海道南部(渡島半島)から本州、四国、九州地方に分布し、山中や丘陵地など、やや湿った場所に普通に生える雌雄異株の落葉性低木です。よく枝分かれして高さは3~8㍍に達し、樹皮は暗褐色で枝は赤褐色または暗褐色に、葉は互生して長さは5~13㌢の楕円状卵形~長楕円形で、先端はとがり基部はまるく、ふちには鋸歯があります。キブシは地域によっていくつかの変種があり、外観上の葉の大きさや花穂の長さなどの違いから区別されます。
豊かな花穂をつけたエノシマキブシ
その中で、八丈島など伊豆諸島に分布するキブシをハチジョウキブシ、関東地方の海岸沿いに分布するものを
エノシマキブシと呼んでいますが、両者には大きな違いはないと思われます。早春の江の島では参道脇山側や、
海沿いの山側にエノシマキブシの花を見ることができます。
エノシマキブシの花穂と若葉
生命の躍動を覚える早春、生きとし生けるものの息吹を感じます。江の島の参道脇や広場にも、暖かい太陽の光を受けて、野草たちは清楚な花を競って開き、殺風景な空間に美しい風情を添えます。落葉樹の梢にも若葉が見られ、観る人の心を和ませてくれます。島内のヤブツバキは赤い花をつけ、ウメやサクラの花が咲き乱れ百花繚乱、島全体が一段と活気づいてきます。キブシもこの時期に合わせて淡黄色の花を房状に垂らし、緑の江の島に彩りを添えます。エノシマキブシはキブシに比べて枝が太く、葉は大きくて長さ10~15cm、広卵形~長楕円形で基部は円形または浅い心形、葉の裏側はやや白っぽい感じがします。花期は3~4月、葉が出る前に淡黄色の穂状花序を総状に多数垂らして人目を引きますが、これをフジの花に例えてキフジとも呼ばれています。
小花は長さ8~10㍉の釣鐘形で花弁は4個、萼片も4個あります。雄株は雌株より多くの花をつけるので豪華に見えます。拡大した雄花の写真をご覧ください。中心に退化した雌蕊(淡緑色)があり、その周りを雄蕊が取り囲むように8個並び、いずれも花粉をつけて黄色く見えます。一方、雌株の花は雄蕊が退化して小さくなり、中心の雌蕊が大きく目立ち子房も肥大します。このように本来、両方の性を持ち合わせていたものが、進化の過程で優秀な種を残すために自家受粉による受精を防ぎ、一方が退化していったものなのでしょうか、そんなことに思いを巡らすと興味は尽きません。もちろんキブシの実は雌株に付き雄株には付きません。9~10月、果実(液果)は黄色~黄褐色に熟し、長さ5~15㍉の楕円形で中に種子があります。キブシの名はこの果実を付子(五倍子)の代用にしたことに由来し、果実から染料のタンニンをとり、昔、歯を黒く染めるお歯黒(鉄漿)に用いたとされています。因みに付子とはヌルデの若葉に付く虫こぶのことです。
雄株の花で8個の黄色い花粉を付けたものが雄蕊です
【写真&文:坪倉 兌雄】