ヤブツバキは常緑の高木で、江の島に自生する代表的な樹木の一つです。
江の島の植物・樹木≪ヤブツバキ≫
2013年1月19日
ヤブツバキ(藪椿) Camellia japonica ツバキ科ツバキ属
ヤブツバキは本州、四国、九州、南西諸島に分布し、沿海地に多くみられますが山地にも生えます。常緑の高木で、江の島に自生する代表的な樹木の一つでもあります。樹皮は灰色で不規則な模様があり、高さは10~15㍍。葉は互生して長さは5~15㌢の長卵形で厚く、表面は濃緑色で光沢があり、ふちには細鋸歯があります。2~4月、枝先に赤色の花が一個ずつ咲き、花弁は5枚、長さは3~5㌢で 平開しません。
龍野ヶ岡自然の森に咲くヤブツバキ、雄蕊は合着して蜜を蓄えます
多数の雄蕊があり、葯は黄色、花糸(白色部分)の下半分は合着して筒状になり、基部は花弁と合着します。子房は無毛で花柱は3裂、萼片は5個、蒴果は4~5㌢の球形で果皮が厚く、熟すと3裂して暗褐色の種子を2~3個出します。椿油はこの種子からとります。
ヤブツバキの蒴果は球形ですが熟すと3裂します
低木状のユキツバキ(白馬村の山中で撮影4月29日)
ヤブツバキの花の基部には多数の雄蕊が合着し、蜜を分泌して花糸の隙間に溜め、小鳥を呼びます。ヒヨドリやメジロはくちばしに黄色の花粉をつけて花から花へと花粉を運びますが、このような花を“鳥媒花”と言います。日本海側に分布するユキツバキは、多雪地帯に適応した形で低木状に這うように伸び、地面についた枝から根を出して新しい個体をつくりますが、これを伏条更新といいます。葉は狭長楕円形でやや薄く、ヤブツバキに比べて鋸歯が大きくて網状の脈が目立ち、花弁は細くて薄く水平に開きます(写真参照)。ユキツバキはヤブツバキの変種とされていますが、一方、亜種または独立した種であるとの見解もあります。ツバキの名は葉の厚みや光沢に由来する「厚葉木」または「艶葉木」からの転訛で、藪に生えるものを “藪椿”、雪国に生えるものを“雪椿”とした、との説があります。江の島にはタブノキ、ヤブニッケイ、クスノキ、スダジイなどの常緑広葉樹が多く、年中緑をたたえ“緑の江の島”とも歌われていますが、ヤブツバキもその一つで日射しが強いと葉がきらきらと照り映えます。これは葉の表面を覆うクチクラ層(cuticula)が発達していることによるもので、これらの照葉樹で構成される森を照葉樹林といいます。クチクラは生物体表の外側に分泌される膜様物質のことをいいますが、植物ではクチン(角皮素)が主成分で、不飽和脂肪酸などの蝋状の物質が根や葉などの表面を覆い、過度の水分蒸散を防ぎ、塩害などから組織を守ります。
江の島の湘南港は、第18回夏季オリンピック東京大会(昭和39年10月10日開催)のヨット競技場として整備されましたが、このオリンピックの年に、都 はるみの「アンコ椿は恋の花」が大ヒットしました。翌年には江の島~伊豆大島間の定期航路が開設され、昭和49年までの約10年間運航されていました。ツバキの名所・伊豆大島には、およそ300万本のヤブツバキがあるともいわれていますが、かつては椿油の製油は大島の大きな産業の一つでした。種子から得られるツバキ油は頭髪用に、また軟膏の基礎剤や食用油として、現在でも広く用いられています。堅くて緻密な材は器具や彫刻に、また優れた「椿炭」としても注目されています。
【写真&文:坪倉 兌雄】
記事編集に際しては諸権利等に留意して掲載しております。 2019年3月10日